2025年6月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月12日

 フィナンシャル・タイムズ紙が、5月19日の英国と欧州連合(EU)の首脳会談における双方の関係リセットの合意は、巨大な取引でもなく、欧州連合離脱(Brexit)の裏切りでもない、関係再建への第一歩だ、とする社説を5月20日付で掲げている。要旨は次の通り。

首脳会談を行ったウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長とキーア・スターマー英国首相(代表撮影/ロイター/アフロ)

 EUとの関係リセットの合意は、Brexitへの巨大な裏切りではない。巨大な取引でもない。しかし、インドと米国との最近の貿易合意と同様に価値ある一歩である。

 その重要性はとりわけ象徴的なものである。Brexit以降における最初の大きな合意はより緊密に協力することが双方の利益であることの承認を意味する。

 英国の軍および防衛産業の影響力を考えれば、合意の目玉は安全保障・防衛パートナーシップである。この合意は軍の訓練と機動性、サイバーと宇宙の安全、インフラの強靭性とハイブリッドな脅威への対抗における協力を正式なものとする。

 このパートナーシップは、「第三国協定」に署名することを条件に英国がEUの1500億ユーロのSAFE(Security Action for Europe)調達基金に参加する道を開くものであり、双方にとって重要な成果である。

 リセットの経済部分は限定的である。しかし、英国の農業食品のほとんどを煩わしい国境検査と書類を省いてEUに輸出可能にする衛生植物検疫協定に向けて作業するという合意は、労働党の選挙公約を実現するものである。双方の排出権取引制度の結合と併せて、これは2040年までに英国経済をほぼ90億ポンド押し上げると政府は推定している。もっとも、Brexitによる経済への打撃のわずかな部分を相殺するに過ぎない。

 しかし、他方で顕著な交換条件がある。英国は「dynamic alignment」を受け入れる、すなわち、植物・動物産品に関する変遷するEUルールを自動的に受容する、すなわち、EU法に係る部分の有権解釈はEU司法裁判所に委ねられることになる。また、EUの漁船には英国の海域へのアクセスを、現在の取り決めが失効する来年以降、さらに12年間(当初のオファーの倍以上の期間)認める。


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