2025年7月2日(水)

家庭医の日常

2025年6月28日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(designer491/gettyimages)

<本日の患者>
K.T.さん、56歳、男性、老舗和菓子屋店長。

 「今日はね、人間ドックで軽い認知症の血液検査をしてみようと思うんで、ひとつ先生の考えをお聞きしようと思って来たんです」

 「そうですか。相談に来てもらってありがとうございます。じゃあまず、どうしてその検査をしてみようと思ったかを聴かせてもらえませんか」

 「はい。実は自分では何にも気づかないんですがね、うちの店の者が『店長この頃物忘れがある』って言うんです。そしたら家内が『お義母さんより早くボケたら嫌だから、人間ドックかなんかで徹底的に調べてみたら』ってことになったんです」

 「認知症ドックとか脳ドックとか呼ばれてますね。そうでしたか。じゃあ、K.T.さんの現在の状態を踏まえてお話ししましょう」

 K.T.さんは、2023年1月の『認知症新薬「レカネマブ」への期待と懸念』に登場した老舗和菓子屋の大女将T.T.さんの息子で、五代目として店を任されている。私が働く家庭医診療所とは家族ぐるみの付き合いで、K.T.さん自身は4年前に私たちがサポートしながら禁煙に成功し、その後は禁煙の維持にも配慮しながら高血圧のマネジメントのために定期受診している。ちなみにT.T.さんはとてもお元気で、今年の初めに、喜寿のお祝いを地域の人たちも含めてにぎやかにしたところだ。

軽度認知障害(MCI)とは何か

 「軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)」とは、認知機能の低下はあるが認知症の基準を満たさない程度であり、日常生活への支障が全くないかまたは最小限の状態のことである。ここで認知機能とは、人が情報を認識、理解、記憶、思考、判断、行動するために動員する脳の働きを意味する。

 国立長寿医療研究センターでは、一般向けにMCIを解説する冊子『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック(第2版)』を昨年出版した。そこでは、「MCIは、認知症そのものではありません。しかし健常な状態でもありません。認知症と健常な状態の『中間のような状態』です」と書かれている。


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